コストばかりに目がいきがちな人材育成にしっかりとした知見を持ちましょう
2023年04月12日
■その育成は学習者が主体ですか
「ぜひこの講師にお願いしよう」と人材育成担当者が思う時は、どのような時でしょうか。
その講師の説明が分かりやすく、受講者の状況を確認し、時には笑いを取りながら講義を進めている姿を見て、そしてアンケートの反応もよかったとき、そう思うことでしょう。
しかしながら、人材育成を行っていくうえで、“講師が熱心に「教えている」間、学習者は何も学習できていない”ということを御存じでしょうか。
このことは、アメリカ国立訓練研究所が発表した「ラーニングピラミッド」の学習定着率で示されています。教師が熱心に教えている講義での学習定着率は「5%」と言われています。
そうなのです、95%は学習できていないのです。
反対に学習定着率「90%」と示されているのは、「他の人に教える」ことです。他の人に教えることで学習が定着します。つまり学習は、学習する者が学ぶことによってのみ、なされます。決して学習は講師によってなされ得るものではないということです。
「学習者」が「主体」であることが重要です。
■人材育成を成功させるカギは「教えない研修」にある
企業の人材育成は、その育成施策を受けた人達が能力やスキルを向上させ、それを仕事に活かして貢献することを目的としています。そのためには、「実践的」である必要があるでしょう。育成施策の一つに研修があるでしょう。インストラクショナルデザイン(ID)理論の第一人者である熊本大学の鈴木教授は、このようにも言っています。
“研修は最終手段。どうしても行うなら「教えない研修」を。研修は最もコストがかかる手段で受け体質を助長しかねない。”
「教える研修」はあまり役に立たないばかりか、コストがかかるだけでなく受講者の「受身的」な姿勢・体質を助長しかねないという警鐘です。
せっかく企業でコストと時間をかけて研修を行うなら、できるだけ実務に近い環境で、講師が教えるのではなく、学習者が自ら学ぶような研修を実施すべきなのです。
つまり、講師が講義形式で教える従来型ではなく、具体的な事例を使ったロールプレイングやディスカッションをとおして、受講者が主体的に学ぶ「教えない研修」を設計する必要あります。
■チーム学習は、グループで学ぶことでチームになっていくこと
「個人で演習するよりグループで学習した方が、グループダイナミックスが働き、効果があります」ということを聞いたことはないでしょうか。確かにグループダイナミックスを働かせると、学習効果は高くなることがあります。そこには「社会的促進」と「社会的怠惰」の両面があります。
1人のときより、他人にみられている状況の中や、他人と共同で作業した方がより良い結果をだせるようになることを「社会的促進」といいます。その反面、集団にいることで意識的・無意識的に集団に依存してしまい、個人が本来発揮すべき能力を低下させることを「社会的怠惰」といいます。
講師がグループ分けの段階から、グループワークの設計を考えないと、「社会的怠惰」に傾いてしまいます。特に学習意欲が乏しく、自分の能力に自信のない学習者が多ければなおさらです。
そのようにならず、「社会的促進」をおこし、グループでの学習を良い方向に向かわせるには「チーム学習」が必要です。
「チーム学習」とは、「チームで学習する」ということではなく、
グループが「学ぶことを通じてチームになっていく」ことです。
グループの中で、対話・決定・行動・省察を繰り返し、チーム学習により「感じる力」「考える力」の両方を育てるのです。
ここまで、「今更聞けない人材育成理論」の中から、「学習者が主体」「教えない教育」「チーム学習」に触れてみました。
「今更聞けない人材育成理論」では、このような人材育成に携わる方が知っておくべきことを伝えていきます。効果的な人材育成施策を考えていきたい方は必見です。
今更聞けない人材育成理論
- 日程:2023年6月23日(金曜日)15:00~17:00
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コラム執筆者
2009年に起業し現在に至る。
企業の人材育成にとどまらず、一般社団法人IT人材育成協会の理事として、ICT業界の人材育成に携わっている