今改めて検証したい、セクハラ対応
2021年05月10日
1 はじめに
国内においては、セクハラ発言を理由にオリンピック組織委員会会長が引責辞任し、また国外においては、ハリウッドから発信された「MeToo運動」が全世界を巻き込んだ大きなうねりとなり、我が国でも度々取り上げられました。セクハラに対する社会的関心が高まっていることが窺えます。
しかしながら、セクハラが法的にはどのようなことを意味するのか、また、なぜ企業においてセクハラへの対応が求められるのかを正確に把握されている方は少ないのではないでしょうか。本稿では、企業におけるセクハラ対応の重要性について触れたいと思います。
2 セクハラとは
(1) 定義
職場におけるセクハラの概念は男女雇用機会均等法11条1項に定められています。すなわち、職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されたりすることとされています(セクハラという文言こそありませんが、法的にはこれがセクハラの概念と解釈されています。)。
ここでいう性的な言動とは、性的な内容の発言、および性的な行動を意味しています。
また、労働条件について不利益を受けるというのは、労働者側の反応よって当該労働者が解雇や降格、減給等、雇用契約上の処遇で不利益を受けること(対価型セクハラ)、性的な言動により就業環境が害されるというのは、労働者の意に反して行われた性的な言動により、当該労働者の就業意欲が低下すること(環境型セクハラ)を意味しています。
このように、性的な言動がすべて法的にセクハラと評価されるのではなく、被害者になんらかのマイナスが生じて初めてセクハラに該当し、行為者に法的責任が生じることになります。
(2) こんなものもセクハラに?
ア 「相手もまんざらではなかったはずなのに…」
上記のような法律上の定義を見ると、よっぽどの事例でなければセクハラに該当しないようにも思えます。
しかしながら、実際に問題になる(紛争化する)事例はもっと身近なものが殆どです。最近特に多いのが、LINE等のSNSを介して食事やデートに何度も誘っていたことがセクハラにあたるとして告発されるケースです。送信者は、既読もつくし返事も来るので相手もまんざらではないと考え、誘いを断られても繰り返し食事等に誘います。しかしながら、受信者にとってみれば、送信者との関係性(多くの場合が上司と部下です。)を踏まえてやむなく返信を続けているだけであり、次第にそれが耐え難い苦痛になることもあるのです。
イ 「ノリが悪いなあ」
また、セクハラは異性同士の問題に留まらず、同性同士でも成立します。ですので、たとえば会社の懇親会の席で男性同士が集まった際に、「お前ノリが悪いなあ」などと嫌がる男性社員に無理やり参加させ下ネタを強要したりすると、男性同士であってもセクハラが成立します。
セクハラ対応の疎漏がもたらすもの
このように、セクハラは思いもよらないところで問題となることも多く、会社の人事担当者として対応に迫られる場面は少なくありません。
一方で、仮にこの対応を一歩誤れば、職場の士気の低下や人材流出といった事実上のリスクに加え、被害者が精神疾患等を発症したり(当然労災が適用されることもあります。)、被害者から行為者と会社に対する損害賠償請求(不法行為責任、債務不履行責任)がなされたり、男女雇用機会均等法違反による制裁を受けたり、といった法的リスクが生じます。つまり、セクハラ対応は、会社のリスクコントロールやコンプライアンス遵守の観点からも看過できない問題なのです。
このように、セクハラについて「なんとなくわかっている」では済まないことを今一度認識いただき、知識の整理や実際の対応フローの確認等をしていただければと思います。
コラム執筆者
企業法務(労務、会社法、コーポレートガバナンス等)に関する紛争予防、紛争解決、一般民事事件、刑事事件などを取り扱う。
経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
著書・論文
- 『多様化する労働契約における人事評価の法律実務』(共著、第一東京弁護士会労働法制委員会編、労働開発研究会、2019)
- 『現在の制度検証から労働組合との交渉まで 制度変更時のプロセスに即した実務課題と紛争予防の視点』(中央経済社「ビジネス法務」2020.12)