反社会的勢力の定義と反社取引管理(反社チェック)の重要性
2022年07月15日
2009年~2011年にかけて、全都道府県で暴力団排除条例が制定され、これに伴って、
企業においても、「反社会的勢力」に対する対応が求められ、企業においても、取引先の
相手を「反社チェック」したり、契約書に「反社条項」を挿入することが一般化しています。
しかし、これらの形式的なチェックは行っているものの、自分の勤務先に怪しげな取引先がいることや自分の身の回りに反社会的勢力が存在する可能性を考えたことがある人は少ないのではないでしょうか。
本コラムでは、反社取引管理の重要性について、反社会的勢力の定義や反社取引管理の
必要性、反社取引のリスク、反社会的勢力と関係をもたないようにするためのポイントを
解説します。
1.反社会的勢力とは何か
「反社会的勢力」の意味とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」を指すとされています。
これは、2007年6月19日犯罪対策閣僚会議で策定された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」において、定められた定義です。
ニュースなどで「反社」と聞くと、一般的には暴力団、総会屋、振り込め詐欺グループ等が思い浮かびますが、「反社」に明確な基準や境界線はありません。
例えば、暴力団に金品を渡して共生したり、暴力団の運営に協力する密接関連者も存在します。また、単に過激な株主と整理できない場合や準暴力団とまではいえない不良集団等も社会には存在しています。
したがって、「反社」かどうかの境界線は非常に曖昧であり、誰が見ても明らかに
「反社だ」とわかる勢力だけでなく、「反社」かどうか判別しにくいグレーゾーンの勢力も社会には存在しています。
自分の業務と反社会的勢力が関わるはずはない、普通の生活をしている中で自分自身の人間関係に反社会的勢力が関与することはない、と思っている方も多いかもしれません。
しかし、こうしたグレーゾーンの存在を含み、知らず知らずのうちに接触している可能性も存在しています。
例えば、店舗でクレームを述べた一般消費者がこうした人物であったり、取引先の新しい
大株主が暴力団であったり、久しぶりに再会した昔の友人が半グレグループに加入していた等、いくつもの可能性が考えられ、誰もが「反社会的勢力と接触するリスク」を持っています。
2 反社取引管理の必要性
それでは、なぜ、企業は、反社取引管理を行う必要があるのでしょうか。
先ほどご紹介した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」では、
以下の3つが、反社会的勢力の関係遮断が必要な理由として挙げられています。
①暴力団資金源への打撃の必要性
反社会的勢力を社会から排除していくことは、暴力団の資金源に打撃を与えることが、治安対策上、極めて重要な課題であり、企業にとっても、社会的責任の観点から必要かつ重要であるとされています。
②コンプライアンスの観点
反社会的勢力に対して屈することなく法律に即して対応することや、反社会的勢力に対して資金提供を行わないことはコンプライアンスそのものであるともいえます。
③企業防衛において不可欠
さらに、反社会的勢力は、企業で働く従業員を標的として不当要求を行ったり、企業そのものを乗っ取ろうとしたりするなど、従業員や株主を含めた企業自身に多大な被害を生じさせる可能性があります。そのため、反社会的勢力との関係遮断は、企業防衛の観点からも必要不可欠とされています。
こうした理由に基づき、現在では、監督官庁や業界団体の指針で反社対策のルールを設けることが多くなっています。また、証券取引所が定める上場廃止基準のひとつとして、反社会的勢力との関係を有している事実が含まれているため、上場会社あるいは上場を目指す企業においては、必須の取組みとなります。
加えて、社会的にも反社会的勢力との交友は許容されるものではなく、従業員や企業と反社会的勢力の繋がりが発覚すれば、企業のレピュテーションを大きく毀損させます。
このように、反社会的勢力との関係の遮断は、企業防衛に不可欠であるとともに、多方面から求められる企業にとっての基本的な事項になっています。
3 反社取引のリスク
反社取引をするリスクについては、以下のようなものがあると指摘されています。
考えられるリスク | 意味・定義 | 対象 |
①直接的な被害 | 反社から直接的に被害を受ける | 企業/担当者 |
②法令違反による影響 | 各種法令違反により法的制裁を受ける | 企業 |
③取引中止・契約解除 | 取引先から契約解除される | 企業 |
④上場廃止・中止 | 証券取引所から上場廃止処分を受ける | 企業 |
⑤関係者の処分 | 関係者が様々な制裁を受ける | 幹部/担当者 |
これらの具体的な事例としては、それぞれ以下のようなものが存在しています。
① 直接的な被害
2017年6月に発生した積水ハウス地面師事件では、積水ハウスが、真の所有者になりすました者その他複数名のいわゆる地面師グループにより、第三者経由で土地及び建物の所有権を取得できると欺罔され、売買代金等名目で55.5を騙し取られる詐欺被害にあっています。
② 法令違反による影響
2021年4月、地場大手の設備工事業者であった九設の社長が、暴力団の組長と飲食等を共にしたことから、福岡県警により、九設が暴力団と「密接な交際、または、社会的に避難される関係」を持つと認定され、公共工事から排除される排除措置の対象となり、対外的な信用の低下し、銀行口座の凍結や取引先からの取引中止も相次ぎ、破産申立てをするに至っています。
③ 取引中止・契約解除
平成7年に東証2部に上場していたスルガコーポレーションが、用地取得の際に、立退き等を依頼した関係者らが反社会的勢力又はその疑いがあると広く報道されたことで、銀行がスルガコーポレーションに対する新規融資を停止し、立退き交渉が行われた不動産の売却も困難になり、急激な資金繰りの悪化により、黒字のまま民事再生手続きを申請するに至っています。
④ 上場廃止・中止
セントレックスに上場していたオプトロムが、平成26年2月27日、第三者割当増資を実施するにあたって、信用調査会社の結果として、割当先の親会社に反社会的勢力等や違法行為と関わりに懸念のある人物が指摘されたにもかかわらず、その事実を伏せ、また翌年の新たな第三者割当増資の際に、取引所から当該事実を指摘されたにもかかわらず、追加調査をしたという虚偽の事実を報告したため、最終的に上場廃止とされています。
⑤ 関係者の処分
百十四銀行九条支店において、平成19年6月から平成20年1月までの間、18回にわたり、元暴力団組員が実質的に経営する会社4社に対し、回収の見込みがないにも関わらず、大半は無担保で、合計10億5000万円の融資を実行したとして、支店長が、百十四銀行を懲戒解雇されたほか、特別背任罪で逮捕され、実刑判決を受け、百十四銀行自体も内部管理態勢に問題があるとして、四国財務局から業務改善命令を受けることとなりました。
以上5つの事例のように、一度反社取引が判明すれば、会社や個人に多大な影響が生じ、
場合によっては、企業の存続に関わり、関係者も刑事処分等の厳しい処分を受けることがあり、反社取引を行うリスクは非常に高いといえます。
4.反社会的勢力と関係を持たないようにするために
反社は、その存在が曖昧であり、知らず知らずのうちに接触していることも否定できません。反面、反社取引のリスクは非常に大きいものとなります。
反社会的勢力と関係を持たないようにするために、1人1人が反社会的勢力と取引しないという意識をしっかり持ち、企業は反社取引管理(反社チェック)を徹底することが求められます。
具体的は、以下の4か条をしっかりと守る必要があります。
①「反社会的勢力とは絶対に取引しない!」と認識する。
②自社の反社取引管理ルールを遵守する。
③反社会的勢力につけ込まれるような弱みを作らない。
④反社会的勢力の兆候に気付いたら、然るべき部署に報告する。
コラム執筆者
弁護士法人堂島法律事務所弁護士/リスクモンスター株式会社社外取締役
2011年弁護士登録。堂島法律事務所(大阪)による5年間の勤務の後,2017年より財務省関東財務局証券検査官及び証券取引等監視委員会事務局に出向。
2019年より弁護士法人堂島法律事務所(東京)所属。
2020年6月より株式会社リスクモンスター取締役(監査等委員)。